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商標審査基準(改訂第12版)の公表②(2016年3月24日)

<新着ニュース> by 永露祥生

今回は、商標審査基準〔改訂第12版〕の改訂のポイント(2)とされている、
書籍等の題号等の取扱い(商標法第3条1項3号)」について見てみたいと思います。
※商標審査基準〔改訂第12版〕:https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun-kaitei/document/11th_kaitei_h28/12han.pdf

関連する箇所として、下記の通り、第11版よりだいぶ基準が細かく記載されています。

********************************************
(1)・・・
(ア)「書籍」、「電子出版物」、映像が記録された「フィルム」、「録音済みの磁気テープ」、
「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」等の商品について、
商標が、著作物の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合には、
商品の「品質」を表示するものと判断する。

(例)商品「書籍」について、商標「商標法」、「小説集」
   商品「録音済みのコンパクトディスク」について、商標「クラシック音楽」

(イ)「放送番組の制作」、「放送番組の配給」の役務について、
商標が、提供する役務たる放送番組の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと
認められる場合
には、役務の「質」を表示するものと判断する。

(例)役務「放送番組の制作」について、商標「ニュース」、「音楽番組」、「バラエティ」

(ウ)「映写フィルムの貸与」、「録画済み磁気テープの貸与」、「録音済み磁気テープの貸与」、
「録音済みコンパクトディスクの貸与」、「レコードの貸与」等の役務について、
商標が、その役務の提供を受ける者の利用に供する物(映写フィルム、録画済みの磁気テープ、
録音済みの磁気テープ、録音済みのコンパクトディスク、レコード等)の分類・種別等の一定の
内容を明らかに認識させるものと認められる場合
は、役務の「質」を表示するものと判断する。

(例)役務「録音済みコンパクトディスクの貸与」について、商標「日本民謡集」
   役務「映写フィルムの貸与」について、商標「サスペンス」

(エ)「書籍」、「放送番組の制作」等の商品又は役務について、
商標が、需要者に題号又は放送番組名(以下、「題号等」という。)として認識され、かつ、
当該題号等が特定の内容を認識させるものと認められる場合
には、
商品等の内容を認識させるものとして、商品の「品質」又は役務の「質」を表示するものと判断する。

題号等として認識されるかは、需要者に題号等として広く認識されているかにより判断し、
題号等が特定の内容を認識させるかは、取引の実情を考慮して判断する。
例えば、次の①②の事情は、商品の「品質」又は役務の「質」を表示するもの
ではないと判断する要素とする。

①定期間にわたり定期的に異なる内容の作品が制作されていること
②当該題号等に用いられる標章が、出所識別標識としても使用されていること

(オ)新聞、雑誌等の「定期刊行物」の商品については、
商標が、需要者に題号として広く認識されていても、
当該題号は特定の内容を認識させないため、本号には該当しないと判断する。

(2)人名等の場合
商標が、人名等を表示する場合については、例えば次のとおりとする。

商品「録音済みの磁気テープ」、「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」について、
商標が、需要者に歌手名又は音楽グループ名として広く認識されている場合には、
その商品の「品質」を表示するものと判断する。

(3)「飲食物の提供」に係る役務との関係において、商標が、国家名、
その他の地理的名称であり、特定の料理(フランス料理、イタリア料理、北京料理等)を
表示するものと認められるときは、その役務の「質」を表示するものと判断する。
********************************************

(ア)から(ウ)に関しては、3号の原則的な事項を具体的に記載したものと思われます。

ただ、(ウ)の一例とされている、役務「映写フィルムの貸与」について、商標「サスペンス」が
識別力がないとされているのは、こういった役務を提供している店舗の実態を考慮すると、
やや違和感を覚えるのですが、私だけでしょうか・・・。

(エ)については、題号又は放送番組名として識別力がないと判断される場合についての基準が、
第11版よりもかなり明確になりました。ここで、

需要者に題号又は放送番組名(以下、「題号等」という。)として認識され、
 かつ、当該題号等が特定の内容を認識させるものと認められる場合


とあり、「かつ」とされていますので、いずれの要件も満たしている場合に限って、
識別力がないと判断されるものと理解されます。

書籍の題号の識別力については、比較的厳しい判断がなされている現状がありますので、
このように基準が明確化されたことで、今後は意見書等での反論がしやすくなりそうです。

(オ)については、これまでと実質的に変更はないでしょう。

次に(2)では、商標が、CDなどの商品に表示する歌手名や音楽グループ名である場合の
識別力の判断基準について明確にしています。

先般の「LADY GAGA」事件については、業界内でも大きく議論されましたが、
当該事件の影響を受けて、追加されたものと考えられます。
ちなみに、私見としては、「LADY GAGA」事件の判決には反対です。

なお、「商標が、需要者に歌手名又は音楽グループ名として広く認識されている場合」とありますので、
逆に考えれば、ネットでもほとんどヒットしないようなインディーズ系のバンド名等であれば、
識別力は否定されないということになりそうです。

3条1項3号は後発的無効理由になりませんし、除斥期間もありますので、
将来売れそうなアーティスト名は、早めに商標登録出願をしておいた方が良いということになりそうです。
(もっとも、商標法第26条の効力制限規定がありますので、登録後、有名になってからの権利行使が
可能であるのかという問題はありますが・・・)

歌手名が一般的な氏名でもあるような場合には、4条1項8号についても問題になるでしょう。

ちなみに、このような審査基準がある場合、アーティスト名について識別力がないという拒絶理由通知が来ると、
意見書で「本願商標は、アーティスト名として需要者に広く認識されていない」と反論したくなりますが、
さすがに当該アーティストに失礼ですので、代理人としては困るなぁ・・・と思います(笑)。