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商標審査基準の改訂(改訂第13版)④
(2017年4月17日)

<新着ニュース> by 永露祥生

今回も、平成29年4月1日より適用されている「商標審査基準〔改訂第13版〕」について、改訂ポイントのレビューをいたします。なお、あくまで当事務所の弁理士によるレビュー・見解であることを予めご了承の上、ご覧ください。

今回は、改訂後の商標法第4条第1項第11号について見てみましょう。
4条1項11号は、実務上も最も多く用いられる条項の一つです。具体的には、「商標登録出願をした商標が、先にされた他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その指定商品・指定役務又はこれらに類似する商品・役務について使用をするもの」である場合には、商標登録が認められないことを規定しています。

今回の改訂では、類否判断についての基本的な考え方が記載され、外観・称呼・観念の各要素の判断基準が明確にされるとともに、例示が追加・見直されました。また、出願人と引用商標権者に支配関係があり、かつ、引用商標権者が出願に係る商標が登録を受けることを了承している場合には、本号には該当しないという取り扱いが明記されました。

今回は、新規に追加され、実務上も影響があると考えられる後者の点について見てみたいと思います。


新たに明記された内容

改訂後の審査基準では、項目「13」として、新たに以下の内容が明記されました。

13. 出願人と引用商標権者に支配関係がある場合の取扱い
出願人から、出願人と引用商標権者が(1)又は(2)の関係にあることの主張に加え、(3)の証拠の提出があったときは、本号に該当しないものとして取り扱う。

(1)引用商標権者が出願人の支配下にあること
(2)出願人が引用商標権者の支配下にあること
(3)出願に係る商標が登録を受けることについて引用商標権者が了承している旨の証拠
((1)又は(2)に該当する例)

(ア)出願人が引用商標権者の議決権の過半数を有する場合。
(イ)(ア)の要件を満たさないが資本提携の関係があり、かつ、引用商標権者の会社の事業活動が事実上出願人の支配下にある場合。

ご存じのとおり、先行登録商標と同一・類似の商標であっても、出願人と商標権者が同一であれば、4条1項11号は適用されません。一方で、この同一性はかなり厳格に判断されており、実質的に主体が異なれば、本号によって商標登録を受けることはできません。

そこで実務上よく遭遇するのが、たとえばA社が「A」というハウスマークの商標を持っている場合に、その親子会社であるB社が「A B」というハウスマーク商標の出願をして、本号に該当するとの拒絶理由通知を受けるケースです。日本ではコンセント制度(引用商標権者から併存登録の同意を得ることで拒絶理由を解消すること)は認められていませんので、このような場合にはアサインバック(いったん一方に名義人を統一させて、登録後に元の名義に戻すこと)によって、とりあえず拒絶理由を解消するというやり方が一般的となっています。

しかし、やってみればわかりますが、アサインバックにはそれなりの手間も時間も費用もかかります。引用商標権者はそもそも商標登録されることを認めているのに、融通の利かない、ある意味無駄な手続が必要とされることになります。

そのような問題点があったのが直接の理由かはわかりませんが、上記のような運用がなされることが、新たに明記されました。すなわち、出願人と引用商標権者に支配関係があって、一定の要件を満たす場合には、本号は適用されないというものです。


出願人と引用商標権者に支配関係がある場合とは

出願人から、出願人と引用商標権者が以下の(1)又は(2)の関係にあることの主張に加え、(3)の証拠の提出があったときは、本号に該当しないものとして取り扱うとされています。

(1)引用商標権者が出願人の支配下にあること
(2)出願人が引用商標権者の支配下にあること
(3)出願に係る商標が登録を受けることについて引用商標権者が了承している旨の証拠

(1)または(2)を満たすだけではダメで、これに加えて(3)「引用商標権が了承しているという証拠」を提出する必要があることに、注意が必要です。

ここで、(1)または(2)の「支配下にあること」とは、たとえば、「出願人が引用商標権者の議決権の過半数を有する場合」とか、これに該当しないものの「①資本提携の関係があり、かつ、②引用商標権者の会社の事業活動が事実上出願人の支配下にある場合」が該当するとされています。

「商標審査便覧42.111.03」によれば、「本基準の対象となる出願人と引用商標権者の関係は、親子会社の関係にある場合に限るものであり、その他出願人と引用商標権者が一定の関係(例えば、兄弟会社、孫会社、グループ会社、フランチャイザー・フランチャイジー)にある場合であっても、本基準の対象となるものではない。」とされている点に、まず注意が必要でしょう。グループ関係やフランチャイズ関係があるではダメということになります。

上記「出願人が引用商標権者の議決権の過半数を有する」点については、すでに公になっている株主構成がわかるもの(例えば、会社四季報の写し)等を提出して証明することが必要とされています。

また、上記「①資本提携の関係があり、かつ、②引用商標権者の会社の事業活動が事実上出願人の支配下にある」点については、①については、出願人又は引用商標権者が他方の会社の発行済株式の10%以上50%以下を保有していることを、②については、例えば、出願人がその会社に役員を派遣し又はその会社の経営を恒常的に指導していること等を証明する書類(会社案内、カタログ、定款、パンフレット等)を提出して証明することが必要とされています。要件が、「①かつ②」となっていることに注意です。

なお、上記審査便覧では、「出願人と引用商標権者に支配関係があるか否かは変動しうるため、支配関係があることを立証する資料については、他の出願の審査において提出した資料を援用して利用することはできないものとする。」とされています。つまり、出願ごとに資料の提出が必要ということになりますので、実務上は注意が必要でしょう。


引用商標権者が了承している旨の証拠

(3)「引用商標権者が、出願商標が登録されることを了承していること」を証明するには、証拠として、例えば、以下のような書面(陳述書)を提出する必要があるとされています。

陳述書イメージ

なお、「商標審査便覧42.111.03」によれば、「出願人と引用商標権者の間に支配関係が認められ、かつ、引用商権権者が出願商標が登録を受けることについて了承している場合であっても、引用商標と出願に係る商標が同一であり、かつ、指定商品又は指定役務も同一であるときは、本号に該当するものとして登録を認めない。」とされている点に注意が必要です。完全同一となる出願はあまり想定できないケースではありますが、実務担当者は覚えておく必要があるでしょう。