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商標審査基準の改訂(改訂第13版)⑤
(2017年4月21日)

<新着ニュース> by 永露祥生

今回も、平成29年4月1日より適用されている「商標審査基準〔改訂第13版〕」について、改訂ポイントのレビューをいたします。今回で改訂第13版のレビューについては最終回となります。なお、あくまで当事務所の弁理士によるレビュー・見解であることを予めご了承の上、ご覧ください。

今回は、いわゆる「精神拒絶」について見てみましょう。

「精神拒絶」とは、商標法上に規定があるものではありませんが、商標制度の趣旨に鑑み、審査運用において拒絶理由とされているものです。商標審査基準の中でも、巻末の「その他」の事項に分類がされています。頻度としては高くはないものの、実務上、稀に遭遇することもあるため、最後にご紹介いたします。

精神拒絶とは

まずは、そもそも「精神拒絶」とは何かについてご説明します。

わが国では、先願主義が採用されているところ、これはあくまで「他人」との関係で定められているものです。すなわち、自分の登録商標(出願商標)と同一または類似の商標を後から出願しても、このルールは適用されません

では、自分の登録商標(出願商標)と同じ商品や役務を指定して、同一または類似の商標を後から出願したらどうなるのか、という問題があります。制度の建前上、他人との間で重複した権利は生じないようになってはいますが、自分との関係ではどうなるのかということです。

これについて、旧版の商標審査基準では、以下のように記載されていました。

6.同一人が同一の商標について同一の商品又は役務を指定して重複して出願したときは、第68条の10の規定に該当する場合を除き、原則として、先願に係る商標が登録された後、後願について「商標法制定の趣旨に反する。」との理由により、拒絶をするものとする。商標権者が登録商標と同一の商標について同一の商品又は役務を指定して登録出願したときも、同様とする。

すなわち、「同一人が同一の商標について同一の商品又は役務を指定して重複して出願したとき」は、「商標法制定の趣旨に反する。」という理由により、審査において拒絶することが定められています。要は、先願主義は適用されないが、こういったケースの登録は認めませんよということです。定かではありませんが、「商標法の精神に反する」という言い方もされるため、実務上「精神拒絶」という呼称が用いられるようになったものと思われます。

なお、「第68条の10の規定」とは、いわゆるマドプロ出願の代替の話ですので、これに該当しないのは当然であり、一般の方はここでは特に気にする必要はありません。

精神拒絶適用の不明確性

上記には、「同一の商品又は役務を指定して重複して出願」とありますが、これだけでは「同一」の範囲が十分に明確とは言えません。

というのも、文言上、「完全同一」である場合にこれが適用されるのはわかりますが、「同一の商品・役務を一部に含む場合」や「大概念(小概念)の商品・役務を一部に含む場合」に、どのように取り扱われるか疑問が残るわけです。商標管理や整理をする上で、同一の商品・役務を一部に含んで出願することは実務上もよくあることから、しばしばこの点が議論されていました。

これまでの実際の運用としては、このような場合の取り扱いが必ずしも統一されていなかった印象を受けます。厳しい適用によって登録が認められなかった場合もあれば、精神拒絶を理由に拒絶査定がされた後で審判まで争って最終的に登録が認められたケースもあるようです。

いずれにしても、出願人側としては、精神拒絶が適用される場合をより明確にしてほしいという要望は従来からあったと言えます。

改訂後の精神拒絶の適用

改訂後も、精神拒絶については変わらず巻末の「その他」に掲載されています。
今回の改訂で、以下のような記載にあらためられました。

2.同一人が、同一の指定商品又は指定役務に係る同一の商標又は標章を出願した場合について
(1) 同一人が同一の商標(縮尺のみ異なるものを含む。)について、その指定する商品又は役務がすべて同一の商標登録出願をしたと認められるときは、第68条の10の規定に該当する場合を除き、原則として、後願について「商標法第3条の趣旨に反する。」との拒絶の理由を通知するものとする。
(2) 商標権者が登録商標と同一の商標(縮尺のみ異なるものを含む。)について同一の商品又は役務を指定して商標登録出願したときも、同様とする。

まず、「同一の商標」に「縮尺のみ異なるものを含む」ことが明記されました。また、「商品又は役務がすべて同一」とされ、「すべて同一」の場合であることが明確にされています。さらに、これまでは「商標法制定の趣旨に反する」という理由だったのが、「商標法第3条の趣旨に反する」という文言にあらためられています。いずれも、出願人側にとっては、これによって精神拒絶適用のケースが予測しやすくなったと言えるでしょう。

なお、新設された「商標審査便覧41.01」では、これに該当する例として、より具体的な説明がされています。

これによれば、①本願の指定商品・指定役務と引用の指定商品・指定役務が完全同一である場合②引用の指定商品・指定役務の中に本願の指定商品・指定役務が丸ごと含まれている場合(※ただし、概念的に含まれている場合は除く)に、精神拒絶が適用されるということです。特に、後者②については要注意と言えるでしょう。たとえば、引用の指定商品がA,B,Cで、本願の指定商品がA,Bの場合、これに該当します。

上記以外の場合は、基本的に該当しないとされています。たとえば、一部の指定商品・指定役務は同一であるが本願だけにしかないものがある場合(本願に何らかの追加がある場合)、包括表示と個別表示の違いがある場合などです。
パターン詳細は、特許庁による「商標審査便覧41.01」をご参照ください。

なお、上記商標審査便覧では、精神拒絶に該当する場合であっても、『出願人から、本願の指定商品又は指定役務が、先願又は既登録商標に係る指定商品又は指定役務とは国際分類の版が異なること等により、実質的に商品・役務の内容が相違するとの主張がなされ、その事実が認められる場合には、「同一の指定商品又は指定役務」であるとの推定が覆ったものとして判断できるため、当該拒絶理由は解消する。』とされており、比較的柔軟に運用される旨が挙げられています。

以上によれば、今回の改訂により、今後は精神拒絶について比較的緩い判断がされるようになることが予測されそうです。