| サイトマップ | | プライバシーポリシー |

お問い合わせはこちら

商標類否判断のむずかしさと面白さ

<新着コラム> 2019年2月25日 by 永露祥生

今回のコラムは少し趣向を変え、「商標類否判断のむずかしさと面白さ」について、私が思うところを述べてみたいと思います。


とある類否判断の場合

「A君って、俳優のBに似てない?」
 「Cさんって、アイドルのDに似てない?」
 「EくんとFさんって、なんか似てない?」

日常生活で、このような会話をすることはありませんか?

これに対しては、「そうそう、私も思ってた!」と同意する場合もあれば、「えーっ、どこが!?」と反対したくなる場合もあるかと思います。

このように、「似ているか、似ていないか」の感じ方は、個人によって様々です。

また、「似ている」にしても、「何が似ているのか?」という話もあります。
顔なのか、性格なのか、声なのか、体型なのか、名前なのか、経歴なのか、雰囲気なのか、似ているとされる要素も様々でしょう。

これらの要素をトータルして、一人の人間同士として「似ているか、似ていないか」という類否判断をする場面を想像してみてください。おそらく、これが非常に難しいと言えそうなのが、容易にご理解いただけるのではないでしょうか。


商標の類否判断

ところで、商標実務では、商標が「似ているか、似ていないか」は、もっとも重要なポイントの一つであり、様々な場面で問題となります。

そして、上述のような話は、商標の類否判断の場合にも当てはまります。
つまり、ある商標と商標が「似ているか、似ていないか」の感じ方は、個人によって様々であり、多少なりの主観が入りこむことは否定できないものです。

また、商標の場合は、それぞれの外観(見た目)、称呼(呼び方)、観念(意味合い)が主な判断要素とされるほか、商標を使用する商品・サービス、関連する取引の実情などについてもトータルして考慮した結果、1つの商標全体として「似ているか、似ていないか」という類否判断がされることになります。

このように、主観的な視点と客観的な視点を合わせ持ち、商標が最終的に「似ているか、似ていないか」という類否判断の結論を下すことが、上記の場合と同様に、決して簡単ではないことは容易にご想像いただけるのではないでしょうか。

なお、上述のように、雑談として、ある人とある人が「似ているか、似ていないか」を判断するのは、ミスをしても特にダメージなどありません。しかし、事業で使用する商標の場合は、この判断をミスすると、商標登録が拒絶されたり、他人の商標権を侵害したりしてしまう可能性がありますので、慎重かつシビアに検討する必要があります。


類否判断の理由・根拠を論理的に言えるか?

とはいえ、商標が「似ているか、似ていないか」を答えるだけであれば、実は感覚で(直感的に)判断できてしまうものです。

このような一般的な感覚はとても大事ではあるものの、商標実務では、なぜ似ている(似ていない)と考えるのかという理由を、文章として論理的に述べられなければ意味がありません

そして、商標を専門とする弁理士と、その他の弁理士のちがいは、このあたりにハッキリ表れるように思われます。

逆に言えば、ここに注意しないと、一見するだけでは「本当に商標が得意な(専門の)弁理士なのかどうか」は、依頼人には判断できないと言えます。

たとえば、あなたが商標調査を依頼した弁理士の調査報告には、『「〇〇〇」という、似ている商標があった』といった報告だけで終わっていませんか? その似ていると判断された根拠や理由は、ちゃんと論理的な文章で説明されていますか?

繰り返しになりますが、「似ているか、似ていないか」をとりあえず判断するだけであれば、個人の感覚に基づいて誰にでもできることです。
5歳児にだって、可能でしょう。

たまに「商標はかんたん」と豪語している弁理士を見かけますが、どうもこのあたりを勘違いしているようです。

自分が(感覚的に)した類否判断と、特許庁の最終的な審査結果が、いつも同じになるから自分にはセンスがあるとでも思っているのでしょうか。現在の運用では、「似ていない」と判断される確率の方が断然高いですし、誰がどう見ても似ていると思うものは「似ている」と判断されるのが普通ですから、そんなのはある意味、当然なのです。

こういう弁理士に限って、審判等で意味不明な主張や的外れな理由付けをしてきて、「反論するのも面倒くさい」という思いをしたことのある相手方の商標弁理士(特許庁の審査官や審判官も)も少なくないのではないかと思います。


商標類否判断の面白さ

さて、少し話が脱線してしまいました。

このように、商標が「似ているか、似ていないか」は、答えが用意されていません。
後から結論がひっくり返ることも、決して少なくありません。

ですから、たとえば商標調査における商標類否判断は、自分で考えて考えて考え抜いて、依頼人に調査報告として結論をお出しすることになります。
正直、とても疲れる作業です。

しかし、この白黒付かない点が、醍醐味であり、類否判断の面白さだと思います。
時には、自分が考えた論理や根拠次第で、白という結論にも、黒という結論にもなり得るのですから、とてもやり甲斐を感じられる仕事です。

特に、自分が考え抜いた主張が認められて、特許庁の判断が覆った場合の達成感や爽快感は、何とも言えないものがあります。

そして、商標には「無限」のパターンが存在します。
すると、商標の類否判断で検討する対象も無限であり、終わりはありません。
ですから、商標実務に関わる者にとっては、完璧というラインはありませんし、勉強や研鑽をずっと続けていく必要があるのです。

このような点が、商標類否判断の面白さであり、商標弁理士のやりがい・楽しみでもあり、商標実務の魅力と言えるのではないでしょうか。

飽き性で何事も長続きしない私が、商標弁理士を10年以上も続けてこられたのも、このような面白さを感じているからだと思います。

むずかしいけど面白い、それが商標の類否判断というものでしょう。